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執筆者の写真Saudade Books

詩のリレー連載 食べることは歌うこと #6(寒川一)

更新日:2019年10月19日


「食」にかかわるさまざまな仕事をする人に、「食べること」をテーマに詩やエッセイを寄せてもらいます。



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きみに一本のナイフを贈る


きみに一本のナイフを贈る

きみが人生ではじめて手にするナイフを

それはきみのおじいさんやおばあさん、そのまたおじいさんやおばあさんも使っていた

そしてきみの孫たち、そのまた孫たちも変わらず使っていくだろう


きみに一本のナイフを贈る

おおむかし、火を焚いて刃物を使ったときから、人は人になった

どうしてナイフを使うのかといえば

厳しい自然のなかで人間が生きて、つくり、食べるため


きみに一本のナイフを贈る

まず、自分の心がおだやかかどうか確かめてみよう

大きな声を出したくなったり、走り回ったりしたくなったら

いまはまだナイフを持つときじゃない


きみに一本のナイフを贈る

静かな気持ちになったら、鞘を握ってみよう

そしてそこに、きみの好きな色やしるしをつけてみよう

ナイフを手にするたび、自分が何者であるかを思い出すために


きみに一本のナイフを贈る

持ちかた、抜きかた、渡しかた、人に刃を向けない構えかた

しっかり覚えたら、木を削って削り屑をつくってみよう

そして刃の背中に火打石を当てて火種を落とし、火を焚いてみよう


さあ、きみは立派なナイフ使い

先を尖らせた枝に、家にある食べ物、パンや野菜やマシュマロ

なんでも突き刺して、火であぶってごらん

火であぶれば、なにを食べてもなつかしい味がする


「おいしい!」

それは、人が生きるため、死なないためにつぶやくことば

生きることは、ほかの誰かが代わりにやってくれることじゃない

自分の手で木を削り、自分の手で火を焚いたきみは、今日そのことを知った


きみに一本のナイフを贈る

きみが人生ではじめて手にするナイフを

それはきみのおじいさんやおばあさん、そのまたおじいさんやおばあさんも使っていた

そしてきみの孫たち、そのまた孫たちも変わらず使っていくだろう



付記


焚き火カフェを主宰するアウトドアライフ・アドバイザーの寒川一さんは、小学生の子どもたちを対象に、安全なナイフの使い方、木の削り方などアウトドアスキルを教えるワークショップを行っています。このワークショップの様子と、寒川さんがそこで伝えているお話を聞き書きし、一編の詩として構成しました。こうした活動については、寒川さんがアドバイザーを務め、スウェーデンのモーラナイフを販売するUPI OUTDOOR鎌倉のFacebookページをご覧ください。(アサノタカオ)



プロフィール


寒川一(さんがわ・はじめ) アウトドアライフ・アドバイザー。神奈川県三浦半島を拠点に焚火カフェやバックカントリーツアー、防災キャンプなどを通してアウトドアの魅力を広めている。UPI OUTDOORのアドバイザーとしても活動。北欧スウェーデンのアウトドアカルチャーにも詳しい。監修した本に『新しいキャンプの教科書』(池田書店)、『CAMP LIFE 焚き火主義』(山と渓谷社)など。



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