「食」にかかわるさまざまな仕事をする人に、「食べること」をテーマに詩やエッセイを寄せてもらいます。
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焚火は所有できないものだから
何時に焚火をするのが好きかと聞かれれば
朝の焚火、とぼくは答える
昼ご飯に火を焚き、夕ご飯に火を焚き
夜の語らいに火を焚き、その灰が残っている
空気を遮断しつつ、熱を温存する
昨日の灰の奥からくすぶる種火をかきだし
焚き付けをのせて、ふっと息を吹けば
ふたたび炎が燃えあがる
朝の焚火は
人が今日という一日を生きるために
お湯を沸かし、料理し、お腹を温めるために
焚かなければならない火
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どこで焚火をするのが好きかと聞かれれば
やっぱり海辺の焚火、とぼくは答える
そこには、どこか遠くの森からやってきた
照葉樹や針葉樹のいろんな流木がある
ログキャリーを抱えてひとり家を出て
その日に使う分だけを海辺でひろい
風を読み、白い木を燃やし、家に帰る
そうやって人の一日は完成される
流木は尽きることのない、世界からの贈り物
人間が焚火をおこなうサイクルと
必要な流木が漂着するサイクルは
ぴったり一致することを海辺で知った
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誰と焚火をするのが好きかと聞かれれば
ひとりの焚火、とぼくは答える
火を燃やすことに集中できるから
火を燃やすことに集中する仲間といるのも悪くない
どんな火が好きかと聞かれれば
まっすぐ空気をつらぬく小さな火、とぼくは答える
そんな火にかけるやかんを眺めていて飽きることはない
焼けこげるやかんを愛で、ただ炎を愛でる
流木を集め
水を汲み
火を焚き食べて
そうやって、人間は生きてきた
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「日本の森林が彼の身体を形づくっている
彼の魂も大きな火山の影の中の水源にある
その水源から小川が騒がしくもなく激しくもなく静かに流れている
火は彼の身体の一部
彼は自分自身の腕のように炎を日本人独自の精密さと共にコントロールする
しかし、彼の魂は火の上にある
小川の水がコーヒーケトルに入ると水は停止状態
彼はコーサ(白樺のこぶで作ったカップ)の中身を飲み干し、火は燃え尽き
彼は足跡を残さずに更に広大な平原を越え、慎重に歩いていく
そこは彼が焚火をした場所、そこから草がまた生えてくる」
——Lemmel kaffe「Legenden om Mr. Sangawa」より
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なぜ焚火をするのが好きかと聞かれれば
所有できないものだから、とぼくは答える
炎にはさわれないし、木は燃えて灰になる
焚火は永遠に自分のものにはならない
火をおこして二酸化炭素を解き放ち
その二酸化炭素を吸って草木が成長する
草木は光合成によって酸素を放出し
その酸素を吸って多くの生物は生きている
森と海のあいだで流木を集めて燃やすことは
所有するのではなく、何かを手放すことで
いのちのサイクルを未来につなぎ
いのちの源流に恩返しをする、人の役割
付記
焚火カフェを主宰する寒川一さんのお話しを聞き書きし、一編の詩として構成しました。あいだに引用したテキストは、寒川さんがアンバサダーをつとめるスウェーデンのレンメルコーヒーの動画ナレーションを直訳したものからの抜粋。焚火カフェとは、日没のひとときを神奈川県三浦半島の静かな浜で火と共に過ごすサービスです。焚火道具一式と、コーヒーやホットサンドなどのメニューを用意します。完全予約制です。詳しくはFacebookページの情報をご覧ください。(アサノタカオ)
プロフィール
寒川一(さんがわ・はじめ) アウトドアライフ・アドバイザー。神奈川県三浦半島を拠点に焚火カフェやバックカントリーツアー、防災キャンプなどを通してアウトドアの魅力を広めている。UPI OUTDOORのアドバイザーとしても活動。北欧スウェーデンのアウトドアカルチャーにも詳しい。監修した本に『新しいキャンプの教科書』(池田書店)、『CAMP LIFE 焚き火主義』(山と渓谷社)など。
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